研究概要 |
当初計画の通り, 本年度は九州各県と北海道地方のヨシノメバエ属の材料収集を行い, 日本産6種のうち4種を確保した. 現在国外の材料として西ドイツ産の2種, イギリス産の1種, チェコスロバキア産の4種が手元に送付されており, 4月の実験開始までにハンガリー, ソ連邦, ベルギー, 東ドイツ産の4種が輸入されることになっている. これまでの研究成果をもとに, 日本産全種の雄交尾信号の物理的特性について解析を行い, 交尾受諾に係わる重要なパラメータを抽出した. このデータを基礎にして科研費補助により購入した任意波形作成ファンクションシンセサイザを用いて信号の時間軸・周波数軸のプログラム化されたモデル信号を作成した. これは地理的に隔離された同種の雌集団に対する鍵刺激パラメータを決定するための人工信号となる. 人工信号波形はプログラム化した数値からの出力を小型加振器によって実際に雄が発する信号振動として再現できることがはっきりした. 国外の種類のデータを解析した結果, ヨーロッパに普通に分布するlucens Meigenという種はイギリスにおいてすでに大陸の個体群と明瞭に区別できる信号特性に変化しているという興味ある事実が明らかになった. このことは, 日本にヨーロッパ大陸に匹敵する種分化が見られることと同様に, 地理的に大陸と隔離されたイギリス産でも音響学的形質で種分化のプロセスが進んでいることを示している. その他の音響解析の結果, 前述のlucensと近縁の1新種をソ連邦カスピ海沿岸から発見し, 国内ではやはり広域分布するrutitarsisと姉妹種の1新種を青森県と北海道で発見した. この結果は日本昆虫学会大会で発表した. ヨシノメバエ属は年1化性であるため, ほとんどの実験は昭和62年度の補助で収集した材料をもとに昭63年度中に実施することになるため, 実績は本年度に現われることになる.
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