研究概要 |
イミダゾール系化合物には, アラタ体摘出蚕とよく似た早熟蚕が誘発されることから抗幼若ホルモン(AJH)作用, 前胸腺ホルモンの分泌を抑制することから抗エクダイソン(AEC)作用のあることが知られている. 本研究では, イミダゾール系化合物(KK-42およびKK-62)を用いて, 家蚕の早熟3眠化の機作や蛹期間延長を利用した永続蛹の作成を試みた. 家蚕2令〜4令起蚕にKK-42を投与すると, 早熟3眠蚕が出現し, AJH効果は認められるが, 早熟1眠蚕や2眠蚕は誘発されない. カンボージュ系統でしばしばグロセテリィーが出現するが, この事実はアラタ体の一時的不活代と回復を示唆する. また, 眠性変化には必ず各令期間の延長を伴うが, このことはエクダイソンの分泌が遅れていることを意味する. さらにアラタ体摘出蚕も含めて, 4令期投与では24〜36時間目の投与によって令期間がとくに延長し, 5令期投与では72時間目の投与で営繭が極端に遅れた. すなわち, 抗エクダイソン作用の1つは直接的な生合成への影響ではあろうが, 4令36時間前後, 5令72時間前後の大きな影響は, 脳を介しての前胸腺刺激ホルモン(PTTH)への作用と考えられる. 一方, KK-42(KK-62より効果的)を蛹に投与した実験においても, 蛹期間の延長は認められるが, 脳がある場合には永続蛹にはならない. 除脳蛹へのKK-42投与, KK-42投与蛹の除脳などの実験から, 蛹代後5〜6日目に成虫化の臨界期が認められ, さらに, 抽出したPTTH-Bの投与によってPTTHの関与したAEC効果が認められた. 以上の結果から, イミダゾール系化合物の家蚕における生理活性作用としては, AJH作用およびAEC作用が確認されたが, AEC作用には抗前胸腺刺激ホルモン作用も含まれることが新たに見出された.
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