カイコ細胞中に有用物質の遺伝子を運び込むベクターとして核多角体病ウィルス(NPV)が使用されているが、このベクターは病原性が強くカイコを殺してしまう。そのため、カイコを殺すことなく、外来遺伝子をカイコ細胞中に導入するベクターを開発することが必要となる。 NPVより小型で充分ベクターとなり得ると思われるカイコのDNAウィルスの一つに、カイコ濃核病ウィルス(2型)がある。このウィルスは、ゲノムが2分している。このように2分したゲノムというのは、ベクター開発の素材として有利な点がある。たとえば、もしゲノム分子の一方にのみ複製に関わる遺伝子が存在すれば、他方の分子へのDNA断片の挿入がウィルスの複製を阻害することなく行えるはずである。このウィルスをこのようなベクターに改造するためには、ウィルスの全ゲノムの塩基配列が決定され、その複製、転写、翻訳のメカニズムが詳しく理解される必要がある。そこで、このウィルスのDNAについての解析を行い、以下の結果を得た。 1.2つのウィルスDNAを分離し、制限酵素地図を作成したところ、両者の地図が全く異なっていることが判明した。このことにより、2つのDNAの塩基配列が異なっていること、ウィルスの遺伝子情報が2分していることが推察される。 2.両DNAの塩基配列を決定するために、このてめうをプラスミドに挿入してクローニングした。このクローンを用いて、ウィルスDNAの末端構造を調べたところ、両DNAに共通の塩基配列が存在した。これは、両DNAの複製に関した配列であると思われる。 3.ウィルスの全ゲノムDNAを解析するために必要なデレーションミュータントの作成に成功した。
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