土壌生成に及ぼす植生因子の役割を明らかにすることを目的に、現植被と土壌から分離した植物珪酸体集団との対応関係を植物珪酸体分析によって検討した。また、植物珪酸体分析を補強するために、各植物に由来する珪酸体の化学組成・酸・アルカリに対する溶解性および風化抵抗性などについても併せて検討した。 植被と表層から分離した植物珪酸体集団との間には、比較的明瞭な対応関係が見られた。すなわち、針葉樹林下のポドソルからは、エゾマツ・トドマツ起源珪酸体、照葉樹林および落葉樹林下の赤色土、黄色土、褐色森林土からは、スダジイ、常緑ガシ、イスノキなどの照葉樹林起源およびブナ、落葉ガシ起源珪酸体が多数同定された。他方、林床全体がササ属で被覆されている森林土壌においては、樹林起源珪酸体の比率が極めて低い傾向にあった。また、植被が樹木類で優占されると、樹木起源珪酸体は少なくとも全植物珪酸体の10%以上を占め、イネ科/樹木起源珪酸体比も5以下になる傾向がみられた。極相林の場合は、樹木起源珪酸体が全植物珪酸体の30%以上、イネ科/樹木起源珪酸体比が1以下であった。 イネ科草本と樹木葉部を混合したモデル実験では、イネ科/樹木起源珪酸体比が1以下になるには、樹木葉がイネ科草本葉の2.4〜16倍混合時であった。 植物珪酸体の風化抵抗性は、一般に酸に対して強く、アルカリに対して弱い傾向にあった。植物珪酸体の時間経過に伴う溶解量の変化は1〜2週目までは溶解が進むが、その後は溶解せず平衡に達する傾向にあった。 以上の分析結果から、土壌表層の植物珪酸体分析は土壌の植生歴史を推定する手段として有益であり、土壌生成に及ぼす植生因子の役割を解明する手がかりとして有望である。とくに、樹木起源珪酸体割合およびイネ科/樹木起源珪酸体比は有効な指標である。
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