研究概要 |
本研究は, 受粉現象に関与することが推測されるスフィンゴ糖脂質の分離同定を主眼としているが, 本年度はトウモロコシ花粉と柱頭中のグリセロ脂質, ステロール脂質およびワックスなどの表層脂質の化学的特性を解明するとともに中性スフィンゴ脂質群の構造解析を中心に研究を実施した. 1.脂質成分の一般的性状:花粉と柱頭の脂質含量は, それぞれ8%と1%で, 前者では中性脂質, とくにトリアシルグリセロール, 後者では炭化水素, 長鎖アルキルエステルなどの表層脂質とリン脂質が多く含まれていた. またステロール脂質, 糖脂質およびリン脂質クラスの相対割合および構成分の組成においても両部位で顕著な差がみられ, 各脂質クラスの化学的特性を分子種レベルで解析した. 2.中性スフィンゴ脂質群の種類と構造:中性スフィンゴ脂質として, 柱頭では遊離セラミドとセレブロシドしか見出されなかったが, 花粉ではさらにジーおよびトリグリコシルセラミドが検出された. 2種の柱頭スフィンゴ脂質の構成セラミド残基は, 先に報告したトウモロコシ葉および茎のそれと類似していた. それに反して, 花粉中の両脂質の組成は他の器官のそれらとはかなり異なっており, 主要な脂肪酸はいずれも2-ヒドロキシアラキジン酸であった. 花粉中のスフィンゴオリゴ糖脂質の糖鎖基はセロビオシル型とセロドリオシル型であることが推定された. 3.酸性スフィンゴ脂質の種類と構成分:脂質抽出物の水洗上層画分中に少なくとも4種のリン含有スフィンゴ脂質が検出された. そのうち30%ピリジン可溶脂質群の組成は, これまでに分離された葉スフィンゴリン脂質のそれとは顕著な差があった. このセラミド残基の主成分はスフィンガジエニンと2-ヒドロキシスフィンガニンで, また糖鎖部分は主としてグルコースとアラビノースから構成されていた.
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