蛋白質修飾酵素、ペプチジルアルギニンデイミナーゼ(PADaseと略)はペプチド鎖中のアルギニン残基をシトルリン残基に変換する新しい酵素で(1)蛋白質の正電荷を減少させ、蛋白質分子相互間、或いは蛋白質、核酸との相互作用に影響すること、また (2)生体内のアルギニン残基を活性中心とする多くの生理活性蛋白質に作用し、生体制御に関与することが推測される。本酵素は核ではクロマチン結合性である。これらの事の背景に遺伝子発現に関与すると推定されているクロマチン蛋白質に対する作用について検討した。 1.PADaseの反応生成物であるシトルリンを含むアミノ酸の迅速微量定量法について検討し、6Hcl、150°C、1時間水解後、PTC-アミノ酸としODSカラムを用いるHPLC法により1Pmolレベルで20分間で測定可能とした。 2.PADase感受性非ヒストンクロマチン蛋白質(NHPと略)の検出と同定;仔牛胸腺核よりNHPを調製した。一方、ウサギ骨格筋より調製したPADaseをSepharose43に固定化後、カラムに充填し4°cでNHPを作用させた。反応後LMGとHMGに分画し、アミノ酸分析の結果、アルギニン残基の修飾率は何れの画分も共に約11%であった。次に仔牛胸腺より0.75MHclO_4によりHMGを抽出、37°CでPADaseを1〜2時間で反応後、HMG1とHMG2に分画した結果修飾率はそれぞれ25%及び40%であった。 3.HMGのPADase修飾によるDNAに対する機能変化;ブタ胸腺よりHMG1及びHMG2を精製し、TopoisomeraseIに弛緩させたPBR322DNAに対する泳動の移動度より観察した。その結果、HMG1は修飾(8残基中3残基)によりこのSuperhelix構造形成能が低下し、HMG2ではより顕著であった。またDNA1本鎖部分への結合能に変化はなかった。以上より本酵素の遺伝子発現制御への関与を推定した。
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