研究概要 |
レチノイドと総称されているビタミンA類縁体が細胞の分化や増殖を制御する能力を持つことは古くより知られている. ところが, 最近ビタミンAが分化の引金としてだけではなく, 分化の方向を決定する形態形成因子としての潜在能力をも持つことが示唆されるようになってきた. 胚発生の過程で増殖した細胞は, その時間的・空間的位置に応じて将来どのような細胞になるかを決定づけられ(分化), 形態形成の素因を作っている. このためには, 胚全体の前後, 背腹, 遠近軸上における個々の細胞の位置情報が正しく与えられなければならないが, このような機能を担っていると仮定されるのが形態形成因子群であり, その組織中の濃度勾配が位置情報になっていると考えられる. 我々は胎児性癌細胞F9のビタミンA刺激による3種類の胚体外内胚葉系細胞への分化を研究し, ビタミンAの代謝産物が濃度依存的に分化の方向を決める形態形成因子としての潜在能力を持つことを示した. 現在その作用の分子機構の解明に向けてa)ビタミンAによる胎児性癌細胞F9の始原内胚葉様細胞への分化決定には, 分化発現を統括的に制御するマスター遺伝子群が存在するか, b)これらのマスター遺伝子群の発現はビタミンA濃度やその代謝産物の種類とどのように対応しているのか, c)濃度依存的にF9細胞の分化の方向を決定していると思われるビタミンAの代謝産物を同定できないか等の目標のもとに研究を推進している. 他方, F9細胞の分化に伴なう遺伝子発現制御系の変動を解析する手段として, 各種ウィルス・プロモーター系の分化による活性をクロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ発現を指標として研究し成果を挙げつつある. 特に, F9細胞の内臓内胚葉様細胞への分化に伴なってSV40ウィルス・プロモーターの活性が顕著に抑制されることを発見し, この制御に寄与しているタンパク性因子の精製を開始している.
|