本研究は、植物体を構成する各組織の特性を酵素分子に着目して解析しようと試みたものである。エネルギー変換系の基本要素であるミトコンドリア内膜酵素、チトクロムオキシダーゼ(Cyt ox)を研究対象とした。地上部と地下部の組織を選び、特にCyt ox活性と温度の関係に重点をおいた。サツマイモの葉のCyt oxが塊根の酵素に比べて高温下でも安定であることを報告し、夏期日中高温にさらされる葉や茎組織の酵素が高温に対する耐性を備えていることを推論した。本研究では、Cyt ox活性の熱に対する性質の差が膜リン脂質や酵素以外の因子によらず、酵素分子自体の違いによるものであることを明らかにした。すなわち、茎及び根のミトコンドリアから、Cyt oxを可溶化精製して、高温下での酵素の失活の度合を比較したところ、やはり地上部組織の酵素が安定で、根のものはより速く失活した。 植物のCyt oxは分子量の異なる7種(I、II、III、IV、Va、Vb、Vc)のサブユニットで構成されている。そこで各組織のCyt oxのサブユニット分子種等に違いがあるか否かを、免疫化学的、分子生物的方法も用いて解析した。ミトコンドリアDNAにコードされているサブユニット(I、II、IV)は植物種を問わず相同性が高く組織による分子種の違いは期待できないことが明らかとなった。一方核DNA支配のサブユニットの中でVcについてみるとヤエナリの茎と根の酵素では抗Vc抗体に対する免疫反応性が異なり、アミノ酸配列上の差異があるものと推定された。サツマイモの系ではザブユニットVcの遺伝子は1コピーしか存在せず複数の分子種は存在し得ない示されたが、茎と塊根のCyt oxではサブユニットVcの分子数が異なり、塊根のCyt oxにより多く(3分子以上)のVcが結合していることが明らかとなった。熱安定性との関係は今後の課題であるが、組織によって分子種やサブユニット構成比が異なることを初めて示した。
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