研究概要 |
中等度好熱菌Bacillus stearothermophilus菌体から, L-リジンに特異的なアミノアシルtRNA合成酵素(以下LRS)を, 4種類のクロマトグラフィーを含む7工程で電気泳動的に均一にまで精製した. 本標品は-20゜Cにおいて約5ヶ月間安定であった. 本LRSは, 分子量約6万の均一なサブユニットから成る分子量約12万の二量体であることを確認した. アミノ酸活性化反応およびtRNAアミノアシル化反応におけるKm値は, L-リジンに対してはそれぞれ, 14μMおよび46μMであり, ATPに対してはそれぞれ, 160μMおよび230μMであった(pH8.0,37゜C). LRSと基質L-リジンおよびATPとの結合を, 放射性同位元素標識化合物を用いた平衡透析法により測定した(pH8.0,5゜C). L-リジンは, 單独で存在する場合には, LRS1分子当たり0.78個が結合(解離定数,Kd=20μM)するが, ATP(3.6mM)共存下では2個が結合した(Kd=21μM). 一方, ATPは, 單独では(1〜5000μMの範囲で)LRSとの結合は観察されなかったが, L-リジン(2mM)共存下ではLRS1分子当たり0.74個が結合した(Kd=79μM). この結果は, 酵素分子二量体中に存在すると推測される2個の均等な活性中心のうち平均して1個のみが触媒として働くことを示唆する. 一方LRSとL-リジンおよびATPとの結合を, 酵素中のトリプトファン残基由来の蛍光(励起光,295nm;発光,340nm)の変化を指標として観測した. この蛍光変化は, 定性的には上記の平衡透析法で得た結果とよく対応して, これが基質の特異的な結合を反映するものであることが強く示唆された. 63年度には, この蛍光変化をLRSへの基質結合の指標として, より積極的に反応の解析に活用したい.
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