プラスミドpACYC184、RSF1010およびpSY343はいずれもゲノムあたり1〜2個のssiシグナルを持つ。これらのssiシグナルの大きさと構造はプラスミドごとに多様であり、同じ酵素系で作動すると考えられるシグナルであっても相当異なる場合が多い。しかし共通な点が見出されている。第一にステムーループ構造をとりうる領域を含んでいること、第二に大腸菌n′タンパク質認識部位のコンセンサス配列5′ーGAAGCGGー3′に類似した塩基配列を含む。但しこれらの共通な特徴は重要であると考えられるが、ssiシグナルの機能発現への寄与はまだ明らかでなく今後に残された研究課題である。一方本研究で調べたssiシグナルの機能および生物学的役割は著しく多様であり、いくつかの類型に分けられる。第一の型;oriVの重要な一部としてリーディング鎖DNAのプライマーRNA合成を支配すると考えられる(RSF1010のssiAとssiBおよびpSY343のssiA)。第二の型;DNA合成開始点からやや離れた位置にあり、ラギング鎖DNA合成を支配するのではないかと考えられる(pACYC184のssi)。第三の型;oriVからかなり離れており、生物学的役割は明確ではなく、たとえばプラスミド接合伝達時のDNA合成、あるいは通常のDNA複製を円滑に進行させるのではないかと考えられる(pSY343のssiB)。このような生物学的機能の多様性はおそらく各レプリコンの歴史的成り立ちを反映しているものと考えられる。すなわちssiシグナルはDNA複製装置の進化を考える際の一つの指標となり得る。一方DNA複製装置の機能は究極的にはssiシグナルの機能発現である。今後はより多くのssiシグナルを調べて多様性の全貌を把握すると共に、このような特異的機能を決定している構造的因子を解明し、目的に応じたDNA複製装置の設計へと展開していく必要がある。
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