ヒヨス(Hyoscyamus niger)培養根からヒヨシアミン6βーヒドロキシラーゼ(H6H)を部分精製した。本酵素を用いヒヨシアミンと^<18>O_2から6β位を酸素18で標識した[6ー^<18>O]6βーヒドロキシヒヨシアミン(H-OH)を合成した。同様に本酵素と[6β、7βー^2H_2]ヒヨシアミンを反応させることにより[7βー^2H]H-OHを合成した。これらの安定同位体で標識したアルカロイドをドゥボイシア(Duboisia myoporoides)培養茎葉に投与し、変換されたスコポラミンをGC-MSにより分析した。ドゥボイシア培養茎葉は通常トロパンアルカロイドを蓄積しないがヒヨシアミンからスコポラミンへ至る生合成能力を有している。[6ー^<18>O]H-OHから生合成されたスコポラミンは^<18>Oをエポキシ架橋の酸素にほぼ100%の効率で保持していた。一方、[7βー^2H]より生合成されたスコポラミンのMSスペクトルは通常のスコポラミンのものと同一であった。このことは、H-OHから7β位の水素と6β水酸基の水素が脱水素することによりスコポラミンへのエポキシ化反応が起こることを示しており、従来から推定されていた6、7ーデヒドロヒヨシアミンの関与を否定するものである。 次に、ヒヨス培養根から抽出した酵素液が2ーオキソグルタル酸依存型ジオキシゲナーゼの補因子の存在下でH-OHをスコポラミンへ変換することを発見した。[6ー^<18>O]H-OH往び[7βー^2H]H-OHをそれぞれ基質とした酵素実験により、本エポキシダーゼは植物体中で進行する反応と同じ立体化学でエポキシ化を触媒することが判明した。ヒヨス培養根からの粗酵素液中の本酵素活性は反応至適条件下においてもH6H活性よりもかなり低く、又両酵素活性は部分精製段階では分離することができなかった。植物体中ではH-OHがほとんど蓄積することなくスコポラミンが生合成されるので、このエポキシ化反応には本研究で明らかとなったエポキシダーゼ以外の酵素が関与している可能性が考えられる。
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