前年度までの研究で、カルバペネム生産菌であるStreptomyces fulvovi-ridisの変異処理により得たカルバペネム生合成欠損変異株を受容菌として、その欠損を相補する遺伝子(全長、6-kb)をクローン化し、このなかに少なくとも3つの生合成に関わる遺伝子を同定した。また、抗生物質生産と胞子生産を同時に欠損した変異株(FN104)は、他の生合成欠損株や野生株の酢エチ抽出物を添加することにより、同時に両欠損が回復されることから、その回復物質の存在を確認し、蛋白低分子複合体として培地中にあるという示唆を得て、その部分精製を行った。 本年度は、その化学調節物質の大スケールでの精製をさらに進めた。本物質は各種の放線菌に存在していることが確認され、最も強い活性を有していたStreptomyces griseus73-2株を選んだ。本菌の5l培養上清のpHをNaOHで9.5に調整し、1M尿素で蛋白複合体を破壊した。HP20カラムクロマトにかけ、メタノールで段階溶出を行い、FN104の抗生物質生産能の回復を指標として活性測定をした。ここで2つの活性主ピークが得られた。それぞれのピークをエオータリーエバポレーターで濃縮し、ODS薄層クロマトを用いてアセトン:水=1:1の溶媒で展開した。活性物質を含む画分をかき取り、メタノールにて溶出した。次にこの活性物質をODSシリカゲルHPLCで分画したところ、それぞれから活性ピークを得た。本物質はS.fulvoviridisFN104のカルバペネム生産性と胞子着生能を同時に回復させ、ストレプトマイシン生産菌におけるA=ファクターと同様、微量化学調節物質または微生物ホルモンとしての機能を有することが明確になった。 現在のところ、本物質の構造決定には至っていないが、精製スキームをほぼ確立できたので、大量の培養上清から出発して、各種の機器分析を行って構造決定まで持っていくことが今後の課題である。
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