先年度に、pockプラスミドpSA1.1を保有することによって抑制されたSt-reptomyces azureus PK100a株の胞子形成を回復させる物質としてL-Cys、D-Cys、Bacitracin(BC)、Glutathione(GL)を検出し、これらの物質が野生型株やプラスミド非保有株の胞子形成、気菌糸伸長、抗生物質チオストレプトン(TSP)産生にも有効であることを明らかにした。本年度は、引き続きこれら化合物の作用を検討して、以下の結果を得た。 1.L-、D-Cysには顕著なTSP増産効果があり、この増産効果は、TSPの構成成分にCysが含まれ、また構成成分の4個のthioazole環残基がCysに由来することによると考えられた。BCには液内培養菌体の生育促進効果が認められた。 2.BCに対して著しい気菌糸伸長を示した野生株PKO株とpSA1.1を有するPK100a株由来の胞子形成回復株PK100asの性質を比較したところ、PK100as株はPKO株と同様pSA組込み配列を保有するようになり、PKO株と同じように欠損ファージSAt2産生を伴う自然誘発性のpockを形成するなど、PKO化の傾向を示した。PK100as株の親株PK100aがTSPを殆ど産生しないのに対し、PK100as株では明瞭なTSP産生の回復が認められた。またpSAプラスミドは染色体組込み配列から生じ、再び染色体に組込まれ、またプラスミド化する性質のあることが明らかになった。 3.以上を総合して、L-Cys、D-Cys、BC、GLは、細胞を活性化して、細胞分裂、細胞分化及び二次代謝産生能を高めることで、pSA1.1の致死作用を陵駕し、胞子形成やTSPの産生を促進すると推測した。 4.さらに、類似の効果の認められる物質を産生するStreptomyces cyaneus等の放射菌を数株検出したが、物質の同定には至っていない。しかし、本研究で使用した方法は細胞分化及び抗生物質産生を促進する物質の検索に優れた方法であることを示した。
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