研究概要 |
今年度はαs_1-カゼイン(αs_1-CN)における下細胞エピトープの限定化を試みた. すなわちαs_1-CNのトリプシン分解物から逆相系HPLCにより9種類のフラグメントを単離・精製し, さらにαs_1-CNの全領域をカバーしその両端において5残基ずつ重複させた19〜20残基からなるペプチド13個を合成した. 次にこれらの部分ペプチドのT細胞増殖刺激活性をTcellproliferation assayにより求めαs1-CNのT細胞エピトープの全貌を明らかにした. その結果, BALB/Cマウスでは66-75, 96-103を中心とする領域および151-185内にエピトープが存在することが, またC3H/Heマウスでは59-75, 96-110および151-155を中心とする領域がエピトープであることが示された. しかしC57BL/6マウスではエピトープがαs_1-CNのC末端側に集中して存在していることは認められたものの, フラグメントと合成ペプチドで得られた結果が一致しないため, その正確な位置は同定されなかった. この不一致はプロリンの異性化による両者間の微妙な立体構造の差などが原因であると考えられた. このαs_1-CNのT細胞エピトープの全貌の解明により, αs_1-CNのような特定の高次構造をとらない蛋白質でも特定の部位がエピトープとなること, つまりアミノ酸配列中にエピトープとなるべき情報が内在していることが明らかとなった. 次に遺伝的背景の異なる3系統間の比較から, Ia抗原の類似した系統間ではT細胞エピトープの全貌も類似していること, すなわちどの部位がエピトープとなるかはIa抗原のような遺伝的要因によっても決定されることが示唆された. 最近Berzofskyらにより抗原はT細胞に認識される際両親媒性α-helix構造をとるという説が提唱され, αs_1-CNにおいてもこれがあてはまることが確認された. しかし現在のところ仮説にすぎず疑問視すべき点も多い. いずれにせよαs_1-CNのT細胞エピトープの決定はアレルギー発症機構および免疫応答系による蛋白質抗原の認識機構の解明に役立つものである.
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