本研究は代表的な牛乳アレルゲンであるαs_1-カゼイン(αs_1-CN)、β-カゼイン(β-CN)などの乳蛋白質を抗原として例にとり、これらの蛋白質に対する特異抗体やT細胞抗原レセプターの抗原認識機構を解明し、その成果を食品アレルギーの発症機構の解明などに役立てようとするものである。まず最初にαs_1-CNにおけるT細胞および特異抗体による認識部位(エピトープ)の全貌を明らかにしようと試みた。すなわち、αs_1-CNの全領域をカバーしその両端において5残基ずつ重複させた鎖長79-20残基の13種類の部分ペプチドを化学合成しまた各種酵素分解フラグメントを調整し、それらのペプチドのT細胞増殖刺激活性および特異抗体との結合性を測定した。その結果、3系統のマウス(BALB/C、C3H/He、C57BL/6)においてTおよびB細胞エピトープの全容が明らかとなり、1)ある特定の高次構造をとらない蛋白質でもやはり特定の場所がエピトープとして選択されることや2)系統の異なるマウスにおいて比較的共通してエピトープとなりやすい部位は存在するものの、そのProfileは同一ではないことなどの新しい知見が得られた。次に抗β-CNモノクローナル抗体(MAb1c3)とβ-CNとの抗体反応をペプチドアナログ、抗原抗体複合体のプロテアーゼ分解、NMRといった3種類のことなる手法を併用して分子レベルで詳細に検討した。その結果、β-CNのMAb1C3との結合部位は一次構造上193残基目から202残基目を中心とした領域にあること、その結合には194Gln、^<200>Pra、^<202>LArgが大きく関与し、┣D1193Tyr、┣D1201┫D1Valの関与は小さいことさらには┣D1193Tyr、┣D1194┫D1Glnは結合に関与するがMAb1c3との距離はそれほど近接していないことが示された。すなわち、抗原と抗体の相互作用の詳細な解析には、今回用いた3種類の手法の併用が有効であることが確認された。本研究において得られた以上の知見は食品アレルギーの発症機構の解明や治療法の確立に貢献可能であると考えられる。
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