昆虫はその生活環において、脱皮を繰り返して成長していくことをひとつの大きな特徴としている。羽化ホルモンはこの脱皮行動を直接解発する働きを有する脳神経ペプチドである。我々はこれまで大量のカイコ蛹および成虫頭部を材料として羽化ホルモンを精製、単離し、構造解析を行ってきた。その結果、N端末から61残基のアミノ酸配列を推定したが、ホルモン量が微量なために完全構造を提出することは困難であった。そこで、本研究では羽化ホルモン遺伝子をクローニングし、その塩基配列からアミノ酸配列を決定することを試みた。 まず、カイコ幼虫全虫体を用いてゲノムライブラリーを作製し、これまでにわかっているアミノ酸配列から54mer、33mer、36mer、17merの4種類のオリゴヌクレオチドプローブを合成し、これらを用いてプラークハイブリダイゼーションによってスクリーニングを行った。12万個のクローンについてスクリーニングした結果、54mer、33mer、17merプローブにハイブリダイズするクローンが1個得られた。ダイデオキシ法による塩基配列分析の結果、Ala(5)からLys(61)までの配列と完全に一致する配列が得られ、しかも62残基目にLeuがつながり、そのすぐ跡は終止コドンになっていた。また、Ala(5)からN端末側の配列は現在分析した中には見い出せないことから、この部分にはイントロンが介在していると考えられ、そのN端末配列をコードする塩基配列を探しているところである。 一方、カイコ4令眠の幼虫の脳から作製したCDNAライブラリーを上記の合成オリゴヌクレオチドおよびクローニングした遺伝子をプローブとしてスクリーニングを行っており、近い将来、シグナル配列やゲノム上での羽化ホルモン遺伝子の構成の特徴なども明らかにできるのではないかと考えている。
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