1.ゼラチンゲルの融解温度Tmに及ぼす圧力効果(dTm/dp)を3000気圧までの圧力範囲で測定した。(dTm/dp)は(3〜4)×10^<-3>K・cm^2/kgでゼラチン濃度には依存しない。ゾル→ゲル転移に伴うエンタルピー変化、エントロピー変化、体積変化(△V)はともに負の値であることがわかった。この結果は、コラーゲンの熱安定性が加圧により上昇するという以前の我々の結果からも予想されることであるが、coil→helix転移により水和量は減少するにもかかわらず△V<0となる点は興味深い。ゲル状態では、ゼラチン分子間に水を介した水素結合(架橋点)が形成され、この水の収縮により体積が減少するものと思われる。また、加圧下ではゲル形成の速度過程は抑制されており、その活性化体積は正であることがわかった。 2.寒天ゲルについてもゼラチンの場合と同様の実験を試みた。その結果(dTm/dp)は2.3×10^<-3>K・cm^2/kgであった。ゲル化の体積変化△Vはやはり負であるがゼラチンの場合の10分の1程度とかなり小さい。カラゲーナンでは、逆に△V>0であることを考えると、その架橋点は分子間の単純な水素結合によるものではなく、ゼラチンの場合のように水が介在していることが示唆された。 3.酵素で処理した牛乳カゼインの凝集性に及ぼす圧力効果を調べた結果、1500気圧付近までの加圧ではカゼインミセルの解離がおこり、それ以上の加圧では再び会合が促進されることがわかった。この結果は、レンネットによるカード形成反応の第2段階(凝集過程)は1500気圧までは加圧により抑制されることを示しており、実際の加圧下でカード形成が抑制される現象と一致している。 以上の研究からわかる通り、圧力はゲル化機構の解明にとって重要な情報を与えるとともに、食品高分子のゲル形成能の改変や制御に、有効に利用できるものと思われる。
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