前年度はサブドメインを入れ換えたキメラ遺伝子(dgd)を作成したが、高発現プラスミドにサブクローニングして大腸菌で発現したところ、不溶性のタンパク質となって精製および活性の測定ができなかった。そこで本年度は、不溶性のキメラ酵素の可溶化と精製を試みた。電気泳動による精製をさきにおこなってから可溶化することにした。不溶性キメラ酵素のSDSー電気泳動をおこなったのち、キメラ酵素部分のゲルを切り出して精製した。次いで、ゲルから8M尿素で抽出、SDSの除去をおこなってから、透析により尿素を段階的に除去することにより可溶化に成功した。このキメラ酵素のジヒドロ葉酸還元活性を測定したところ、1.2unit/mgであった。これは野生型ジヒドロ葉酸還元酵素の活性の0.1%であった。ところで、グルタチオン合成酵素とジヒドロ葉酸還元酵素のアミノ酸配列を並べてみると、入れ換えたサブドメイン部分でアミノ酸残基の挿入欠失が見られることから、単にサブドメインを入れ換えたキメラ酵素ではアミノ酸配列の疎水性プロフィールが壊れていることがわかった。そこで、キメラ酵素遺伝子dgdにsiteーdirected変異をおこなって、Pheー60残基の削除とArgー71残基の挿入を行ったキメラ酵素遺伝子dgdーfrを新たに作成した。このキメラ遺伝子の発現、精製、可溶化を同様におこない、3.0gの菌体から1.5mgの精製キメラ酵素DGDーFRを得ることができた。得られたDGDーFRの酵素活性を測定したところ4unit/mgであった。すなわち、疎水性プロフィールを改善することによって、約3倍の活性向上がえられた。このことは疎水性プロフィールのみならず、アミノ酸残基の電荷の種類や分布も基質特異性を決定している構造因子であることを示している。このように、野生型酵素に比べると、その活性はまだまだ低いものの、本研究はサブドメイン交換によるキメラ酵素作成、可溶化精製をはじめて実験的に成功したことになる。
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