食品材料に数千気圧の静水圧をかけると、タンパク質は変性し、凝固・ゲル化する。また、酵素は失活し、微生物は死ぬ。この現象を食品の加工・保蔵・殺菌に利用しようとして、昨年に続く研究により次の成果を得た。1.卵、蓄肉、魚肉、大豆などのタンバク質に3000〜6000気圧をかけ調整したゲルの物性および官能的特性を解析した。その結果、これらのゲルは、生に比べ栄養成分の損失や異常物質の生成もなく、消化性が向上し、良質な蒲鉾状あるいはハム状のものであった。2.各種のデンプン懸濁液を数千気圧で加圧すると、デンプン粒子が膨潤し、見掛けは糊状態になり、アミラーゼ消化性が高まることを明らかにした。この条件に与える塩、アルコール等の影響を精査した。この結果は、非加熱デンプン処理の道を拓くものである。3.卵、生酒、生ジュースなどの風味を保持した殺菌処理に加圧処理が有効であることを明らかにした。しかし、酵素の失活に対しては、酵母や細菌の殺菌に比べ高い圧力が必要であった。4.高圧利用の提案を広く訴えるとともに、大型高圧装置や連続処理装置の開発について見通しをたてた。 高い圧力を食品に利用するための以上の研究から、加圧は非共有結合のみの変化をおこす非加熱処理として、広く食品の加工・保蔵・殺菌・殺虫に利用できる新技術となることが明らかになった。最大の特徴は、生の風味を保ったままの処理ができる点にあり、半調理食品などに広い用途があるため、現代の高品質指向の日本の食糧問題に大きく貢献する。今後、わが国独自の技術として確立するため、実用化を目指す試験的研究が急務となっている。また、基礎研究として、タンパク質と脂質、デンプン等の混合物に関するモデル実験とともに、高圧生物科学ともいうべき、圧力の生物及び生物材料に与える影響に関して系統的な研究が必要になってきている。
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