本研究は、形態形成の異なる植物培養細胞について、植物ホルモンの一つであるジベレリン(GA)の含量を詳細に比較分析し、植物細胞の形態形成とGA生合成機能との関連を明らかにすることを目標として着手し、次のような結果を得た。 1.タバコ細胞にノパリン型腫瘍遺伝子(pTi-T37 plasmid)を導入し、クローン化して未分化のまま増殖する細胞(3n'ー6)と茎葉を分化するテラトーマ細胞(3n-3)を得た。それぞれを寒天培地上で培養し種々の成育段階で収穫し、GAをGCーSIM法により同定定量した。その結果、テラトーマ細胞では成育の盛んな時にC_<20>ーGAであるGA_<53>、GA_<23>、GA_<19>が高レベル(700ー800pg/gr fr wt)で存在するが、未分化細胞ではいずれのGAも100pg/gr fr wt以下であることがわかった。 2.ニチニチソウにおけるノパリン型(V208)とオクトピン型(V277)のクラウンゴール細胞をそれぞれ液内培養し、細胞に含まれる活性GAを生物試験法による検索した。その結果、分化しやすい性質をもつノパリン型細胞にのみ活性GAの存在が認められた。GCーMS分析により、この活性GAの一つは、C_<20>ーGAであるGA_<24>と同定された。 3.タバコクラウンゴール細胞(SRIー3132、iaaH^-)は、茎葉を分化するテラトーマ細胞として増殖する。この細胞のGA生合成機能について検討を行ったところ、GAの生合成中間体であるカウレン生合成能をもち、前述の1と同様にGAとしてGA_<53>、GA_<23>、GA_<19>が高レベルで存在することが確認された。 以上の結果は、植物腫瘍細胞におけるGA生合成能は、細胞の形態形成能と密接に関連しており、未分化細胞ではGA生合成が抑制されているが、茎葉を分化する細胞では健全な植物組織に匹敵するGA生合成能が発現されることを示す。
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