昭和63年度は前年度に引き続き地元利用に関する実態調査と、全国動向をめぐる統計資料の収集・整理を行った。 実態調査は長野県松本市、岩手県川井村、福島県川内村、宮城県仙台市を対象とし、林野利用の変化と地元組織の再編状況について調査分析した。先ず市町村有林をめぐる地元利用では、都市近郊型公有林と純山村型公有林とで異なる展開相がみられる。前者の事例として、松本市市有林(財産区)では昭和50年代後半、特定分収制の導入によって市有林経営の財政的補強が行われ、これを契機に「故里祭り」等首都圏住民との交流関係が高まり、都市住民の意向も取り入れつつ森林利用の在り方を考えるという、新たな地元関係が芽生えつつある。また水資源問題と流域保全の立場から、流域全体の協議会が編成され、これに地元利用集団が組込まれる。市民の森として特定の地元利用集団から市=町内会管理へと移行しつつある仙台市有林の展開が特徴的である。 一方、純山村型にあっては福島県川内村にみられるように、公的機関造林を導入し、造成段階は地元労働力の雇用によって林野との結びつきは保持されてきたが、造林終了と共に地元との結びつきは著しく希薄化しつつある。 国有林野における地元利用は、伝統的な放牧・薪炭共用林野の再編成によって人口牧野・高冷地に野菜畑への転換が進み、集落を基礎に置く協体利用に移行した岩手県川井村、逆に外部資本の進出によって共用林野がスキー場用地転換された岩手県安代町では、レジャー施設に対する就労、民宿、農産物供給などによって、地場経済の発展的再編が行われつつある。 全体として、古い形の地元利用関係は解体しつつあるが、地元利用集団を協業体として再編した形態のものに発展的展望が認められる。
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