研究概要 |
目的と方法:樹木と根およびその周辺土壌に生息する根圈微生物との関係については, 根粒や菌根のように植物根に明らかな形態変化を生じる場合を除いて, 詳しい研究が行われていない. 本研究では, 根粒を形成する非マメ科植物を材料として, 樹木と放線菌との共生関係を根粒表面に生息する細菌をも含めた窒素固定に関する共生系とみなし, 共生放線菌以外の細菌の系における役割りを明らかにすることを目的とした. 本年度はその第一段階として, 東京大学の北海道, 秩父, 愛知の各演習林および富士山五合目においてハンノキ属の樹木の根粒を採取し, その表面に生息する細菌を窒素化合物の量を制限したRennieの半流動寒天培地(炭素源としてショ糖, マニトールおよび乳酸, 窒素源として酵母エキスを含む)で分離した. さらに, 分離株について若干の菌学的性質を検討した. 結果:上記培地によって分離された菌株の総数は90であった. そのうち, アセチレン還元法で窒素固定活性を示す菌株が分離されたのは北海道(富良野)のケヤマハンノキ, 秩父(栃本)のヤシヤブシ, および愛知(犬山)のヤシヤブシのそれぞれの根粒からであったが, 富士山五合目のミヤマハンノキ根粒から分離された細菌はいずれも窒素固定活性を示さなかった. 分離された細菌の性質について予備的検討を行った結果, 炭素源の資化性や粘質物生成の有無から, 分離株はいずれも, 従来植物の根とゆるい共生関係を持つことによって植物の生育を促進することで知られている非共生窒素固定細菌Azospiri IIumとは異っていた.
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