1.無菌栽培したハンノキ幼植物の生育に及ぼす非共生窒素固定細菌接種の影響 前年度は種々の地域より採取したハンノキ属樹木の根粒とそれに近接する根の表面における非共生窒素固定細菌の分布についての調査を行った。この実験を通じて単離された窒素固定細菌を用い、本年度は無菌栽培したハンノキの幼植物の根に単離した細菌を接種して、ハンノキの生育に及ぼす接種の効果を検討した。 幼植物の生育は接種後およそ2か月間は順調であった。しかし9枚の葉が展開する頃になって細菌を接種しない対照区および接種した区の一部の植物の生育が止まり、間もなく枯死した。一方、一部の菌株を接種した植物はその後も順調な生育を続けた。植物の健全な生育に有効な菌株の分離源はすべて根粒の表面に限られており、特に成熟した根粒より得た細菌が有効であった。根粒に近接する根の表面より分離した細菌を接種した植物はすべて枯死した。根圏生息性の窒素固定菌Azospirillumの2種はともに植物の順調な生育に有効であった。 2.単離した窒素固定細菌の菌学的性質 前項で述べたハンノキの順調な生育に有効な細菌の性質を検討した。検討した9つの菌株はいずれもコロニーの形状、細胞の運動の仕方、半流動寒天培地での生育状態などからAzospirillumとは異なっていた。そのうち、OFテストが酸化的な1株と性質の不明な1株を除く7株はいずれもグラム陰性の短桿菌でカタラーゼ陽性、オキシダーゼ陰性でOFテストは発酵的、グルコースより酸を生成するもので、Enterobacteriaceaeに属する可能性があることが示された。 これらの実験を通じて、非マメ科樹木の根粒表面における"根粒圏"の存在が推定された。
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