前年度において、列島各地の小面積植物群落内に出現する木本植物の種数を気候帯によって調べ、その際の種数分布の特徴が歴史的要素を強く表わしていることを提案した。ただし、その結果が、大面積群落に適用できるかに関して問題が残されていた。 今年度は、小面積データを集め、加え合わせて大面積データ集(約千点)を作成し、温度帯ごとに分けて種数分布を調べた。その結果、前年度とほぼ同じ傾向が得られ、その結果を確認した。また、上記のデータ集に出現する樹木を生活型によって整理し、温度環境に対する生活型分布の対応を検討した。生活型に関しては、常緑、落葉種および、両者に区分できない種群に分けた。また、高さの属性として植物誌により、高木、亜高木、低木、小低木種群に分けた。これらの生活型種群を温度傾度に対して整理することによって、次の結果が得られた。 落葉種に冷温帯で最大種数を示し、その両側では減少する。常緑広葉樹種は、寒冷域から温暖域に向って緩かに増大する。ただし、列島全体からみると、常緑、落葉種がすみ分けることなく、同じ温度帯に重複して分布する傾向が強い。特に裏日本の多雪地帯では、低木性常緑種が雪の保護によって寒冷域まで上昇する傾向が明らかであった。この傾向は系統群に分けて調べると明らかではない。系統群による生活型の適応はそれぞれ特異性が認められた。 以上から、第三紀以後に森林帯としての分化が次第に明確になってきた日本の森林は、よく調べると未分化な特徴がかなり残されており、特に裏日本ではその傾向が強いことを明らかにした。この結果をまとめて、日本生態学会に投稿した。
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