研究概要 |
育林生産は生産期間が数十年と長く、かつ、労働投下を要する期間がその初期の部分に偏っていることを、技術的特質としている。育林業が形成されてくる歴史的過程でこの特質がどのように現出してきたかを、農民による「仕立山」方式に注目して実証的に押さえることが、本研究の目的である。当該年度は現地調査を、三重県海山町(9月下旬)、石川県鳳至地域(10月上旬)、北海道道東部(10月下旬)を対象にして実施した。 1.北海道道東部では、昭和30年代後半から40年代にかけて、財産処分として土地を売るために農民自らが・造林する農廃地造林が広汎に展開した。仕立てられた幼齢段階の造林地の購入者は、市街化地域在住の「資産家」であり、彼らが非労働・生産過程の「担い手」であった。なお、本件は諸般の事情から、北海道庁および北大農学部での資料・文献調査と行政担当精通者からの聞取り調査によって、所期の目的を果たした。 2.海山町では,昨年度に引き続き、「年山」の調査を実施した。これは町有林(旧入会山)に、町民が入札して人工林を仕立てる権利を取得し、年期を定めて一種の地上権を設定(地代は全国的に珍しいケ-スであるが前納)するものである。昭和30年代には,この地上権の売買が発生していた。 3.全国でも最も成熟した農民林業地域として鳳至地域のアテ林業をとりあげて、実態調査をした。200年の歴史をかけて、独特な択伐林業がつくられてきており、高蓄積・少量択伐・伏状更新に適した品種選抜と固定(マアテ)も農民の手でなされている。「仕立山」方式の育林業と、〈対照〉されるべきものと考えられる。 4.最終年度ゆえ、総括的考察を行なった。「仕立山」方式の発展形態として、森林組合森林造成事業、分収育林、所有と経営の分離下での森林資源の地域マネジメント、等を位置づけた。
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