コロナ放電処理による紙の表面解質の機構を解明するために、化学ラベル化-ESCA法などの手法を用いて前年度に引き続き以下の成果を得た。供試試料には、ワットマンろ紙、N・BKP手すき紙、TMP手抄き紙、再生セルロースフィルムをエタノール/ベンゼン混液により抽出処理したものを用いた。 (1)上記試料をコロナ処理すると、それら試料表面にはカルボニル基を生じ、水素化ホウ素ナトリウムにより還元処理すると、そのカルボニル基のおおよそ4分の1が減少することを前年に見出したが、還元処理の初期pHを4.5から11.0に変化させても減少率は12%から38%間の値をとり前年度の値とはかけはなれていなかった。 (2)コロナ処理により、セルロースシート表面にカルボキシル基は生成しないが、TMPシートの場合は生成する。 (3)コロナ処理により、セルロースシート表面に導入されたカルボニル基の経時変化を測定したところ、表面に存在するカルボニル基は、100日経過して6%しか減少しなかった。一方低密度ポリエチレンでは22%にも達した。このことは表層のセルロース鎖の回転しにくさを示している。 (4)コロナ処理により、過酸化物(ROOR^')が試料1gあたり1×10^<16>個程度生成したが、オゾニド(ROOOR^')は検出されかった。 (5)コロナ処理によるシート表面の酸化され易さを、表面に導入された酸素量として求めると、抽出成分>リグニン>セルロースあるいはヘミセルロースの順となった。 上記(1)(2)(3)(5)はFSCAならびに化学ラベル化-ESCA法により初めてもたらされた貴重な知見であり、ESCAの威力の大きさを実感することができた。 コロナ放電処理/ESCA/化学ラベル化-ESCA法/水素化ホウ素ナトリウム/カルボニル基/カルボキシル基/過酸化物/オゾニド/ワットマンろ紙/N・BKP/再生セルロースフィルム/TMP
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