揮発性物質と容易に包接化合物を形成するシクロデキストリン(CD)を用いて防虫薬剤を包接し、それを紙に塗工含浸し、できた製品の諸害虫に対する残効性及び薬剤残留性を検討した。薬剤にはアレスリン(AI)、フェニトロチオン(Fe)、オクタクロロジプロピルエ-テル(OCPE)、ペルメトリン(Pe)を用い、供試虫にアズキゾウムシ、イガ、ヒメマルカツオブシムシと2種のダニ(ケナガコナダニ、コナヒョウヒダニ)を用いた。またCDには、量産が可能であること、比較的安価であること等を考慮してβ-CDを用いた。 紙への含浸方法として、各薬剤とCDを相溶性のある溶媒に溶かし包接化した溶液を原紙に含浸させる方法(A法)と、先ずCD添加紙を作製し次いで薬剤を添加含浸する方法(B法)を用い、両者の性能を比較した。A法は高い残効性が得られたが、B法はCDの添加効果が少なかった。薬剤の溶媒に使ったアセトンの蒸散が速く、CD環内に充分包接されずに残留したためと考えられる。工業的に用いられているエマルジョンタイプの薬剤を用いれば水系での塗工が可能であり、包接化効率は上げられるものと考える。 常温(20℃)放置紙や住宅内使用紙の薬剤残留率は40℃放置紙に較べ低い値となった。紙を取り巻くそれぞれの環境条件が影響したためと推察されるが、何れもCD添加の効果は発揮されており、むしろ徐放性を獲得したと見るべきであろう。CD添加防虫紙の残効性能は、薬剤:CD=1:2のものでは若干遅効性を示す場合があったが、総じて残効性は良好であった。ペルメトリンはCD添加により残留性を増すが、それ自身高残留性を示した。またコナヒョウヒダニに対し優れた殺ダニ性を有するとともに、ヒメマルカツオブシムシに対し良好な防虫効果を示した。各薬剤の残留性の序列は概ねPe>Fe>Al>OCPEとなった。
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