本研究では、木材や紙の基本的構成単位である木材細胞壁の材質劣化度を定量的破面解析法を用いて評価することを試みた。まず、解析方法の確立を目指した研究を行い(昭和62年度)、次にその方法を用いて壁破面の定量的解析を試みた(昭和63年度)。とくに本研究では壁中の微細欠陥部(スリッププレーン)が材質に及ぼす影響について調べた結果、以下の結論を得た。 (1)本研究で確立したSEMステレオ画像解析法は壁破面の微細形態を非接触的に三次元計測できるだけでなく、計測値を基にして破面形状を復元できるなど、三次元図形処理の点で威力を発揮した。とくに単一SEM写真ではとうてい判読できないような捩れた破面の正確な形状とか計測困難だった破面の傾斜角度など、従来の破面解析法では入手できなかった知見を多く得ることができた。しかも本解析法の計測誤差は実測で2%以下であった。 (2)スリッププレーンが材質に及ぼす影響については、まず人為的に木材中にスリッププレーンを段階的に導入した試験片(予備圧縮試験片)の力学的性質について調べ、次に予備圧縮試験片の壁破面の定量的解析を行った。壁中にスリッププレーンが存在することによって、木材の破壊強度および破壊までの仕事量(靱性)は著しく低下した。とくにスリッププレーンが多くなる程その傾向は顕著であった。さらに予備圧縮した木材の壁破面は、健全材のそれと異なり、典型的なCII型破面を呈し、破面の傾斜角度は60°〜65°であった。しかも破面の傾斜方向には、面内せん断型(CIIi型)と面外せん断型(CIIo型)の2つがあったが、いずれの場合も破面傾斜角はスリッププレーンの傾斜角とよく一致した。以上のことから、スリッププレーンの存在する細胞壁材料は、その力学的挙動および破壊時においてスリッププレーンのところでの局所的な物性に強く支配されていることが判明した。
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