本研究は、木材腐朽菌によるリグニン分解時に、共存する炭水化物が単に炭素源としてのエネルギー源のみならず、リグニンの木材組織からの溶出に積極的な作用を有しているのではないかとの仮説に基づいている。62年度は、木材腐朽菌が産生する糖加水分解酵素により、リグニン配糖体の生成が可能であることが確認されたので、63年度はこの配糖体の生成が、木材腐朽菌にとってどのような生理的意義を有するかについて解明した。 1.解毒作用-一般に植物体内では、フェノール性化合物は配糖体を形成することによって解毒化される。木材腐朽菌によるリグニン配糖体の生成が、リグニン分解時に解毒作用として機能しているのかどうか、リグニンモデル化合物(バニリルアルコール、ベラトリルアルコール)およびその配糖体(バニリル β-D-グルコミド、ベラトリル β-D-グルコミド)について検討したところ、フェノール性化合物はアルコール性水酸基での配糖体の生成でも毒性が大きく低下するという新たな知見を得た。 2.リグニン重合反応の阻害-これまでの研究によると、単離リグニンに白色腐朽菌を作用させた際、一部ラッカーゼによる重合反応が進行するとされているが、実際の木材腐朽時には観察されていない。これはリグニン配糖体が生成されることにより、重合反応が阻害されているのではないかとの観点からモデル化合物を用いて検討した。バニリルアルコールおよびバニリル β-D-グルコミドにラッカーゼを作用させたところ、バニリルアルコールでは顕著な重合反応がみられたが、その配糖体では重合反応は大きく阻害された。 以上の検討により、木材腐朽時におけるリグニン配糖体の生理的意義をモデル反応により明らかにすることができた。
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