本研究は、木材腐朽菌によるリグニン分解時に、共存する炭水化物が単に炭素源としてのエネルギー源のみならず、リグニンの木材組織からの溶出に積極的な作用を有しているのではないかとの仮説に基づいている。一般に糖加水分解酵素は加水分解作用とともに、転移作用即ち合成能を併せ持つとされていることから、木材腐朽菌による配糖体の生成およびその生理的意義を解明することを目的とした。 1.各種リグニンモデル化合物を種々の糖(グルコース、セロビオース、セルロース、キシロース、キシラン、ホロセルロース等)の存在下、代表的な木材腐朽菌であるオオウズラタケ、カワラタケを作用させ、代謝生成物の検索を行ったところ、単糖類を炭素源とした培養系以外のすべての培養系で、リグニンモデル配糖体の生成が確認され、単離、同定に成功した。 2.多数のリグニンモデル化合物に、セロビオース共存下、βーグルコシダーゼを作用させ、種々の反応条件下で合成反応を試み、酵素反応を利用したフェノール配糖体の高収率合成法を確立した。 3.木材腐朽菌によるリグニン配糖体の生成が、リグニン分解時に解毒作用として機能しているのかどうか、リグニンモデル化合物およびその配糖体ついて検討したところ、フェノール性化合物はアルコール性水酸基での配糖体の生成でも毒性が大きく低下するという新たな知見を得た。 4.バニリルアルコールおよびバニリルβーDーグルコシドにラッカーゼを作用させたところ、バニリルアルコールでは顕著な重合反応がみられたが、その配糖体では重合反応は大きく阻害された。 以上の検討により、木材腐朽時におけるリグニン配糖体の生理的意義をモデル反応により明らかにすることができた。
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