昨年度は沿岸の還元的環境の堆積物からメタン酸化細菌を培養する方法について検討し、集積培養法によってかなりの増殖が認められることを報告した。それに引続き今年度は、集積培養で得られた微生物が確かにメタン酸化能をもつ細菌であることの確認と、それら細菌の海洋における分布、基質となるメタンの分布などについて研究を行った。油壺湾、大槌湾、東京湾や相模湾初島沖の地点から堆積物を採取し、間隙水中のメタン濃度をガスクロマトグラフによって測定した。東京湾底土の夏期などにおいては約3ml/lと非常に高い濃度が検出された。冬期の多少還元度が低下する時期には濃度はかなり低下した。MPN法を用いてメタン酸化細菌数を計数した所、現場のメタン濃度とも密接な関係があり、東京湾の夏期には底層付近で10^3/mlのオーダーで存在することが分った。東京湾々口に近い地点ではメタン濃度も低くまた酸化細菌数は低かった。このような傾向は、油壺湾その他の水域においても認められた。これらの細菌を集積培養をくり返して、最終的に純粋分離しようと試みたがこれまでの所、非常にむずかしくまだうまくいっていない。そこで最終的に得られた懸渇液の微生物がメタンガスを炭素源として利用する能力をもっているかどうかを休止細胞について検討した。休止細胞をメタンガス気相下で無機培養地で培養した所、時間の経過と共にメタンガス、酸素が消費され、炭酸ガスが増加する傾向は全ての培養で認められた。またこれらの細菌細胞の切片を電子顕微鏡で観察した所、メタン酸化細菌に特有の膜構造II型が認められ、これら細菌の培養がうまくいっていることを確認できた。相模湾初島沖のシロウリガイ群集域においては湧水中にメタン濃度が高いことは報告されているが、この海域からも酸化能をもつ細菌の存在が認められた。メタン酸化細菌は培養の非常に難しい細菌であるが、これら細菌の研究への糸口をつかむことができた。
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