変態完了時の体色の変化が、仔魚期後半の変態過程における左右相称から不相称への体型変化と相関しているものであれば、体各部における左右不相称性を示す形質にも影響を及ぼしているはずである。昨年度までの成果により、ヒラメでは眼の移行の異常はほとんど認められないが、カレイ類の種苗生産においては白化や両面有色個体には眼の移行の異常を示すものが高率で出現することが報告されている。そこで今年度は、当水産実験所において種苗生産したササウシノシタ稚魚の頭部形質を比較した。種苗生産したササウシノシタの変態完了個体を、体色正常個体、完全白化個体および部分白化個体の比較を行ってみると、完全白化個体では、眼の移行に異常をきたしていることが示唆された。つぎに有眼側と無眼側の形態の異なる頭部器官、特に前鼻孔の形態や無眼側にのみ分布する皮質突起、口唇形態について、体色の発現状態と頭部の形態を観察した。体色正常個体で観察すると、有眼側では単なる管状であり開口部に鼻弁を有しないが、無眼側では鼻管は太く、その壁は肥厚し、先端外周を幾つにも分岐した皮質突起で囲まれ、別に1個の杓子状の硬い鼻弁が鼻壁から鼻孔に向かって突出していた。一方完全白化個体においては、両側ともに無眼側で形成されるべき形態の前鼻孔が形成され、鼻弁も存在した。また前鼻孔の位置を含んで周辺にまで体色が発現していた部分白化個体では、有眼側には、本来の有眼側の特徴を示す前鼻孔が形成されていた。体色正常個体では、無眼側の頭部には皮質突起が形成されていたが、完全白化個体では、無眼側とまったく同様に有眼側にも皮質突起が形成されており、さらに部分白化個体頭部の体色発現部位には皮質突起が形成されず、白化部位には皮質突起が形成されていた。このほか鱗の形態や口唇の形態は、体色の発現とよく対応した関係を示していた。
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