異体類の種苗生産過程で多発する体色異常個体、特に白化個体について形態および組織学的な比較を行い、その発生機構について検討した。まずヒラメを用い変態完了後にすべてが体色正常個体になる群と白化個体になる群を飼育し、仔稚魚の外部計測形質を比較したところ、若干の外部形態の相違が認められたが、体色の発現との関連については明確な結論が得られなかった。つぎにササウシノシタを用いて体色正常個体と白化個体を比較すると、白化個体の頭部白化部位においては、無限側の形質が発現しており、体色発現との対応が明確に認められた。ヒラメ仔稚魚の色素細胞の分布および分化過程を光学顕微鏡でおよび透過型電子顕微鏡によって観察したところ、白化個体有限側の白化部位では、色素細胞の分布状態および分化過程が無限側と同様になっていた。しかも、表皮粘液細胞の分布密度比を比較すると、色素芽細胞の分化に先立ち、体色正常群では皮膚の左右不相称化が変態始動期に既に開始されていることが示唆された。 以上のことから、皮膚全体を一つの統合されたものと見なし、その中で色素細胞の分化も制御されていると考えれば、正常な体色の発現には変態過程の始動期に皮膚の左右不相称化が開始されることが不可欠であることになる。白化を引き起こす要因は、直接色素芽細胞の分化に関与するのではなく、皮膚の左右不相称化に関与すると推察された。本研究は、おもに皮膚の部分の光学顕微鏡、および電子顕微鏡による組織、形態学的観察にとどまったが、今後の研究の進展のためには、内分泌系をも含めた体内の器官形成の制御機構の解明や、細胞培養等による実験系の確立などが必要とされる。
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