研究概要 |
瀬戸内海産下等底生動物におけるフグ毒・tetrodotoxin(TTX)の分布, 起源, 蓄積機構を解明する目的で, 実験を行ない, 以下の諸結果を得た. すでに他地域でTTXの保有が確認されていけトゲモミジガイ(Atropecten polyaoanthus)が瀬戸内海でも毒化していることを確認した他, 扁形動物のヒラムシ類もTTXを保有することを発見した. さらにヒラムシの一種オオツノヒラムシ(Planocera multitentaculata)の消化管内容物から, かなり強力なTTX産生能をもつ細菌Vibrospを分離し, ヒラムシのTTXの起源である可能性を示した. 次にオオツノヒラムシの部位別の毒性を調べた結果, 輪卵管が2000〜3420MU/gと他部位に比べて著しく高いことを確認した. 消化管がこれに次いだ. さらに海岸の岩石の表面や貝殻に産みつけられた産出卵の毒性は最高10700MU/gと著しく高く, 親のwhole bodyの毒性の数倍から数10倍を示した. 次にトゲモミジガイについても同様に部位別毒性を調べた結果, 卵巣の毒力が強く, 他部位の数倍から数10倍の毒力を示した. 消化管, 外骨殻がこれに次いだ. 一方, 精巣と幽門盲のおは低毒性か無毒であった. また卵巣の毒性が高いため平均すると, 雌は雄の約2倍の毒力を保有することが判明した. 以上, フグ, イモリ等の脊椎動物と同様, ヒラムシ, トゲモミジガイでも卵巣あるいは産出卵の毒力が辛いことを確認したがこれはTTXがこれら動物において無防備な卵を保護する防御あるいは警告物質として作用していることが示唆される. この他, 扁形動物と近縁の紐形動物のミドリヒモムシ(Lineus-fuscoviridis)クリゲヒモムシ(Tubulonus purctatus)等のヒモムシ類にTTXおよび関連物質の存在を初めて確認し, TTXの分布を扁形動物に拡大した. また環形動物のウロコムシにも初めてTTXの存在を検出した.
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