本研究はエキスパート・システムの開発を目標にして、当面、対象となる事象について得た情報から「問題発見」する手法の開発を目的とした。粗飼料生産を研究対象として、既存の経営診断の技法にとらわれず個別経営間の生産性を計量し、その諸要因を解析する問題発見の手法を確立した。 十分実用に供するエキスパート・システムの構築には至らなかったが、生産現場でマニアル化、規格化し難い多くの探索型技術ノウ・ハウが存在していることがわかった。また、断片的知識を体系化する過程で、(1)先進農家の持つ知識・技術は裏付け記録も乏しく論理を引き出すのが困難であるから、これを容易にする手法の開発、 (2)知識表現に用いる概念が不統一なので、その統一化と図形表現等の工夫を必要とすることが判明した。 次に、北海道畜産会の診断データを活用して、粗飼料生産における生産性格差とその要因を計量した。山本は、トランス・ログ型の生産性関数に基づき、生産効率を規模効率、純技術効率、混雑効率に分解し、経営単位の技術効率を計測した。永木は、技術と生産効率の不連続な関係を仮定して、技術方式を類型化し、規模効率と技術方式に具現する効率とを計測した。 本分析から次の結論が導かれた。第一に、標本農家の多くは規模に関して収穫一定を示すが、大規模経営ほど規模効率が顕在化する。第二に、規模に関する収穫一定を仮定して、技術効率1の経営とそうでない経営での生産効率の差は労働生産性と肥料の生産性の差である。また、作業能率追求型技術方式は、収量追求型技術方式と組み合わされなければ生産効率を顕示しない。第三に、生産効率が、どの規模、技術、経営に表れているかが具体的に明らかになり、エキスパート・システムの問題発見過程における非構造的な専門知識の収集、体系化に具体的方法を得た。引き続き、粗飼料生産の実用的なシステム構築の研究を継続する。
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