1、調査:89年11月に山東省煙台市で農業企業調査を、89年12月-90年1月に北京、天津郊外で解放前の農家経済、村落経済構造の調査を行った。前者は農村経済の多角化、商品化、就業構造変化の把握、後者は解放前華北農業の経営方式、村落構造、地域経済構造の把握である。現在整理、取りまとめ中である。 2、3カ年の研究計画全体の実施情況:(1)農業経営の特質(歴史と現状)、(2)中国農業の発展段階(特に華北農業での共同体諸規則の存在状況、農家経営の自立水準)、(3)家族の経営体制下の農業の再生産構造と運営メカニズム、(4)中国社会主義の農業包摂形態の特質について多くの知見を得た。これまで以上の研究を論文7編にまとめているが、歴史部分については現在とりまとめ進行中である。 3、得られた知見:(1)華北農村の特徴は農民の自立度の低さである。財産権、営業権、移住権など多くの面で制約を受けてきた。原因は社会主義建設方式、解放前の小農範疇の未確立による。(2)前者では都市=工業、農村=農業の分離、戸籍による農民、非農民の分断、農業を蓄積源とする工業化方式によって農村は閉鎖的地域自給再生産メカニズムを押し付けられ、その上で食糧の低価格安定供給を強いられた。(3)その基礎には解放前の農村の血縁・地縁的結び付きの下での自立性、閉鎖的伝統がある。家族経営のレベルでは、直系男子による完全均分相続による零細化と、非自立化、地域・血縁的共同への依存、農業経営の零細化を補完する農村雑業とまとまった地域市場圏(農村集市)が地域的閉鎖性の基礎にある。(4)今日の農村での商品化、多角化は都市と農村で、直接の商品=貨幣的関係を作り出す点で大きな前進である。従って、今後の研究は中国経済の「二重構造」的蓄積メカニズムの型的研究と中国農業の歴史発展段階的特徴と比較類形的特徴の理論的深化に向けられる。
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