研究概要 |
ミトコンドリアDNA(mtDNA)は, 母性遺伝することから母系伝播経路解析の標識に用いることが可能であり, さらに核DNAを比較して塩基置換速度が約10倍速いので, 種内の遺伝的関係を調べる指標としてきわめて有用である. 今回, フィリピン在来牛のmtDNAの遺伝多型を分析したところ, 2種類のタイプのmtDNAが観察された. この2種類のmtDNA変異は, HindILL, BglIL, PstI, PunILの制限酵素を用いた時検出され, その塩基置換の違いは亜種のレベルと言ってよいほど大きく異なることが判明した. このことは, いったんきわめて遠い遺伝的関係にまで品種分化した2つの牛群が, 何らかの過程で一つの集団として混り合ったものと示唆される. 地域性を考えると, 一つはヨーロッパ牛, 一つはインド牛である可能性が高い. 一方, 核DNAの遺伝多型を, ヒトMHC遺伝子をプローブとして各家畜について調べた. MHC遺伝子は, 抗病性・体質など経済形質と関連する重要な遺伝子である. すでに血清学的な調査から多型性の高い遺伝子であることは判っているが, DNA多型においても多種多様であることが判明した. しかし, ハイブリダイズする断片が余りにも多く, 同一品種内でも解析には逆に困難な結果となった. また用いたプローブがヒト由来なのでハイブリダイズする効力が多少弱いことと, 偽遺伝子との判別も問題となった. このことは, 用いるプローブを選別する必要があることを意味する. これまで高等動物においてクローニングされているDNAは, ヒト・マウスなど遺伝生化学的研究の進んだ動物種由来がほとんどであり, 今後この分野において家畜それ自身のDNAをプローブに用いるという技術開発が必要になる. その意味で現在ランダムクローニング法によりいくつかの家畜それ自身のDNAを含む細換えプラスミドを得て, それらをプローブに用いることを試みている.
|