生乳中で起こるリポリシスと同じ条件で乳脂肪を分解することにより乳脂肪由来の風味を強化し、新たな食品素材を調整することを目的とし、低脂肪高蛋白の乳製品である低脂肪チーズに良好な風味を付与することを試みた。生乳中のリパーゼによる脂肪分解を促進するため、40℃で均質化処理をして1時間後に殺菌した。均質化効果を、遊離脂肪酸の増加、レンネットカードの破断強度、脂肪の浮上り、脂肪球の状態により検討した結果、均質化圧力は70kg/cm^2で十分なことを確認した。均質化入20kgを殺菌脱脂乳80kgに加え、熟成型低脂肪チーズを試作した。熟成4ヵ月の14試料の組成(%)は、水分40.0〜46.9、蛋白32.1〜38.5、脂肪11.2〜13.4、酸度1.0〜2.0であった。水溶性窒素は全窒素の16.3〜35.9%であった。遊離脂肪酸含量(ADV)は食塩含量により影響され、食塩1.6%以下ではADVが70〜100で強い風味を与えたが、1.6%以上では15〜25であった。均質化しない牛乳や、殺菌後に均質化したものを加えた場合は、ADVは10以下であった。均質化乳を10kgとし、バターミルク20kgも加え(脱脂乳70kg)製造したチーズの組成(%)は、水分50.5〜51.1、蛋白28.9〜34.9、脂肪7.2〜9.9、酸度1.5〜1.6であり、水溶性窒素は全窒素の18.5〜28.5%であった。食塩含量は1.8〜3.7でADV8.3〜15.1であった。バターミルクを加えると特有の風味を与えるが、カードの収縮が少なく水分の多いチーズになるが、カードの結着が不十分でもらいチーズとなった。均質化処理により遊離脂肪酸を増加させた牛乳を脱脂乳に加えることは、脂肪風味の強化には有効であるが、低脂肪であるため、滑らかさがなく、そのまま食用とすることは組織、体質の点でむずかしい。しかし粉状になりやすいので、粉末チーズとして用いるか、食品加工の分野でチーズ風味を与える添加物とするなど、食品素材として利用する価値があると判断された。
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