鶏卵白の硫安塩析により得たglobulin画分からchymotrypsin-Sepharose affinity chromatog.によりchymotrypsin、trypsinを阻害するovoinhibitor(O.I)を単離し、ovomucoid(O.M)画分からはtrypsin-Sepharose affi.chromatog.によりtrypsin阻害O.Mを単離した。O.I、O.MをそれぞれligandとするSepharose affi.chromatog.により、ふ卵7〜8日目の鶏卵50個の胚部抽出液から少量の2種のproteinaseA、Bを分離した。本操作を数回繰返して得た酵素液につき諸性質を調べた。多数の胚から初めて少量分離できた2種の酵素の活性は極めて弱くKunitzのカゼイン消化法により、hr-orderで測定できる程であった。酵素Aの反応至適pHは8〜10の範囲に亘るがBの至適pHは6近傍であり至適温度はともに42℃であった。Aの活性はMg、Cuイオン、EDTA添加では影響されず10^<-3>M濃度のFe、Znイオン添加で45%阻害された。DFP修飾により失活しSer-酵素であることが認められた。さらにO.Iにより強く阻害されるがO.Mでは阻害されず合成基質Benzayl-Tyr・Ethyl Esterを水解することからchymotrypsin様酵素と推定された。酵素BはAとは逆にO.Iでは阻害されずO.Mにより阻害されp-Tosyl Arg-Methyl Esterを水解するのでtrypsin様酵素と推定された。つぎに加熱処理により内在inhibitor、O.I、O.Mを失活させた卵白希釈液(蛋白濃度4%)に2種のembryo-proteinaseを別々に作用させると42℃、1〜18hrまでの分解反応は直線的に進行することが認められ、これらの酵素はふ化過程中の卵白タン白質の分解利用に機能していることが示唆された。さらに酵素A、Bの活性が弱く卵中の内在inhibitorのO.I及びO.Mにより選択的阻害を受けることは「ふ化過程中のproteolysisの内在inhibitorによる制御作用」の証左になるものと思われる。 以上の研究結果から鶏卵中のO.I及びO.Mの存在と機能はふ卵中のタン白質代謝調節上、生化学的にも合目的であると判断された。
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