ボツリヌス神経毒素の作用機構を利用して神経伝達機構の解析を行う目的で、以下の各点を明らかにした。まず、ボツリヌス神経毒素の生物活性を測定する過程で、毒素の均一性について疑問が生じたので、D型毒素をさらに精製し、毒素分子の多様性について検討した。D型毒素は、ディスク電気泳動法およびSDS電気泳動法では単一のバンドになるが、等電点電気泳動法では3本のバンドに分かれた。この標品をさよにHPLCにかけ、2つの分画に分けたところ、毒性と等電点の異なる毒素が得られた。現在、両者の比較を行っている。つぎに、シナプトゾームに対する毒素の結合について検討した。D型毒素はシナプトゾームと混合すると、5分以内に1-2の極大をもつ結合特性を示し、この特性は、温度依存性であるが、C1型毒素はほぼ類似の結合特性を示すものの温度の影響はD型に比べて小さい。このことから、C1型毒素とD型毒素では結合物質が異なることが示唆された。結合物質との反応の差異を検討するために、毒素分子の機能構造を単クローン抗体とパパイン消化により解析した。その結果、毒素分子は、結合、侵入および細胞機能修飾の3つの機能単位からなっており、その特性は毒素により異なっていることが明らかになった。また、結合に与る領域は従来考えられていたものよりさらに小さく、結合フラグメントにも侵入に関与する領域が存在することが示唆された。さらに、C1型毒素およびD型毒素の神経培養細胞に対する作用を検討した結果、どの毒素も、アセチルコリン、ノルエピネフリン、セロトニンおよびドーパミンの放出を阻害したが、その程度には差がみられた。毒素で処理した細胞では、ジギトニンで処理してCaを流入させても阻害の解除は見られなかった。このことは、神経伝達物質の放出におけるけCa流入後の過程に、毒素に感受性があり、しかも放出系を制御している分子が存在することを示している。
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