ボツリヌス神経毒素により神経伝達機構の物質的基盤を解析する目的で、以下の点を明らかにした。1)毒素の分子性状と生物活性について。ボツリヌス神経毒素は、従来、同一の型の毒素は分子的に同一であると考えられていたが、C1型毒素およびD型毒素には少なくとも4種類の亜型が存在していること、毒素分子の一次構造は株により異なっていることが明らかになった。同一の株から得られた毒素でも、等電点の異なる3種類の分子が存在する。亜型の異なる毒素は、生物活性も異なっており、細胞毒性はC1型毒素だけに見られ、一方、ADP-リボシル化活性はD型毒素の方が強い。ボツリヌス神経毒素には、in vivoでの致死活性、in vitroでの細胞毒性、トランスミッター放出阻害活性およびADP-リボシル化活性をもつことが明らかになったが、これらの活性が、どの様に連動しているかは不明である。 2) 毒素の機能構造について。毒素分子をパパインで限定分解すると、分子量10万と5万のフラグメントを生じる。単クローン抗体とシナフトゾームを用いてこれらのフラグメントの機能を調べた結果、分子量5万のフラグメントは、結合とその後の分子の移動に、10万のフラグメントは、分子の作用部位への移動と活性発現の機能をもっており、毒素分子が3つの機能単位からなることが示された。 3) 毒素結合および毒素の作用機構について。毒素をシナプトゾームと反応させたのち可溶化して、毒素・毒素結合物資複合体を分離したところ、分子量約8万、5万及び2.5万の毒素親和性物質が存在することが明らかになった。一方、毒素によりADP-リボシル化される分子も分子量2.5万前後であるから、同一の分子である可能性が高い。毒素を神経細胞の初代培養系に加えると、神経伝達物質の放出が阻害される。この阻害は、ジギトニンを加えても解除されないから、毒素は、Ca流入後の放出過程を阻害していると考えられる。
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