研究概要 |
リンパ球性脈絡髄膜炎(LCM)ウイルスについては我国における存在は不明であった. 近年, 佐藤等により実験動物に抗体を保有するものが見出され, 我国においてもLCMウイルスの存在が疑れるに到った. 1, 野生アカネズミのLCMの疫学的調査 LCMウイルスWE株をVero-Eb細胞に接種し, 5〜6日後に採取した感染細胞を用いて蛍光抗体間接法により抗体を調査した. 調査は千葉県下, 鴨川4, 勝浦17, 館山1, 富浦95, 木更津2, 夷隅2, 千葉市2, 成田24, 富山5, の合計159例について行った. アカネズミの採取時期は1984年11月より1987年3月までである. 陽性例は富浦において1987年1月に採取された1例のみであり, その抗体価は1:64であった. 千葉県におけるLCMウイルスの侵淫はこの陽性例が真の陽性であったとしても千葉県全体で0.6%, 富浦地区においても1%と著しく低い. しかもその抗体価も感染後血清と比較すると比較的低い価を示した. この陽性例についても中和試験等により確認する必要がある. 齧菌類におけるArenaウイルスの世界的な分布より考えれば我国にLCM以外のArenaウイルスが存在する可能性もあり, ウイルスの分離が必要である. 2, LCMウイルス感染の診断法の改良 LCMウイルス感染の血清診断は, これまでウイルス感染細胞や精製ウイルスを抗原として行われて来た. しかしながらLCMウイルスはP_3レベルの病原体であり, 抗原の供給には制限がある. そこでLCMウイルスのS-RNAのコードする核蛋白と糖蛋白の遺伝子に対するCDNAを昆虫ウイルスに組込み, 昆虫由来株化細胞内でこれらの蛋白を大量に発現させた. その産物を抗原として, 蛍光抗体法, ELISAが可能であり, 感度も従来のウイルス抗原と同等もしくはそれ以上であることが明らかとなった. この系を用いることにより, 安全かつ大量にLCMウイルス抗原を供給することが可能となった.
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