山羊の乳腺上皮細胞に有用物質を導入して発現させるためには前段階として乳腺細胞の恒常的増殖の獲得と、導入するゲノムDNAあるいはcDNAの精製が必要である。今回の研究ではその基礎的実験を行ってその可能性を探るのにとどまり、導入と発現については今後の研究の進展に待つ事になった。 先ず山羊乳腺上皮細胞の培養については材料採取が簡単な乳汁中の上皮細胞の培養法を確立するとともに培養細胞の形態について観察を行った。即ち、通常の培養においては10%にウシ胎児血清を添加しているが、山羊乳汁由来乳腺上皮細胞の培養においては30%で良好な結果が得られることが判明した。培養細胞の形態については継代を重ねるに従って多型性を示すようになったが、電子顕微鏡的あるいは免疫組織化学的に上皮細胞の特徴を示していた。次に、生体により近い状態を実現できるとされているコラ-ゲン・ゲル培養法を山羊乳汁由来乳腺上皮細胞に応用した。その結果固定ゲル上では平板培養と大差無かったが、浮遊ゲル上では細胞は円形化して生体内におけると同様の形態を示して増殖した。一方ゲル内に包埋した上皮細胞は増殖しなかった。以上の結果より乳腺上皮細胞の増殖分化には間質線維芽細胞の関与が重要となっているのではないかと言う推測のもとに、線維芽細胞の培養上精添加と同細胞との非接触同時培養を行って比較した。その結果、培養上精は50%混合するのが乳腺上皮細胞の増殖に良好な結果を与えたが、非接触同時培養によりは悪かった。 一方、ゲノムDNAの精製に関してはヒトのカルシトニン遺伝子およびカルシトニン遺伝子関連ペプチド遺伝子を用いて、馬の精巣ゲノムDNAの同遺伝子群について解析した。その結果ヒトとウマでは同遺伝子群に構造上の相違が有ることが示唆され、更にサラブレッド種においては比較的均一に同遺伝子が保存されている事が判明した。
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