研究概要 |
ボツリヌス菌毒素は, 運動神経と筋細胞との連絡部である神経終末に作用する. 毒素は, 神経終末からの化学伝達物質の放出を抑制し, 神経刺激の伝達を阻害する. この結果, ヒトや動物に致死性の運動麻痺か起こる. 本研究は, ボツリヌス菌毒素の持つ機能を, 毒素の分子構造と関連づけて解析することを目的とする. 毒素はH-chainとL-chainの2つのサブユニットから構成されている. 毒素を蛋白分解酵素で限定分解するとH-chainが2分されることから, 毒素がL, H-1, H-2の3種類のドメインから構成される分子モデルを提唱した. 酵素処理毒素から, LとH-1がS-S結合したフラグメント(L・H-1)と, H-2フラグメントの精製に成功し, このモデルを立証した. 毒素は脳シナプトゾーンに結合し, H-chainがこれに関与することが解っている. H-2を認識するモノクローナル抗体は, 毒素のシナプトゾームへの結合を完全に抑制した. H-1認識モノクローナル抗体による結合阻害もみられたが, 部分的な阻害に停った. L・H-1あるいはH-2による毒素のシナプトゾーム結合の阻害実験を行った. L・H-1による阻害は弱く, すべてのドメインを持つ毒素の約10%の阻害率を示した. H-2は毒素のシナプトゾームへの結合を阻害した. 但し, 毒素に比べると阻害率は低かった. 脳シナプトゾームをシアリダーゼ処理し, ガングリオシドを取り除くと, 毒素はシナプトゾームに結合しなくなった. 蛋白分離酵素処理した場合, 毒素のシナプトゾームへの結合量は減少したが, 減少の程度は, シアリンダーゼ処理シナプトゾームよりも低かった. 以上の結果から, 毒素の神経細胞膜への結合は, 主にH-2ドメインによること, 結合に関与する膜側の物質には, ガングリオシドと未知の蛋白成分が考えられることが明らかとなった. 次年度では, 蛋白成分の単離を試み, 各ドメインとの反応性について検討する.
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