アンギオテンシノーゲン(ANG)のmRNAを成熟及び発生期のラット肝細胞を用いて検索してきたが、特異的なシグナルを得ることが難しく、反応が不安定であった。おそらく、用いたcDNAがヒト由来であること、cDNAをニックトランスレーション法により標識後、様々な長さのプローブとなるため非特異反応がでやすくなるものと思われた。このため、腎摘出ラット血液から、ANGを精製し、抗ANG血清を作製した。同血清によりANGの肝細胞における局在を検討した。その結果、 1)成熟肝細胞のANGの局在、免疫反応性は、明瞭な日周リズムを示した。このリズムは、肝腺房の門脈領域にある肝細胞では変動幅が大きく、中心静脈領域の肝細胞では小さかった。変化様式は、いずれの肝細胞でも、明期の初めにANGの免疫反応は強く、暗期の初めに弱かった。私達はこれまで、形態解析法により肝細胞の微細構造、特に粗面小胞体の日周リズムを明らかにしてきたが、粗面小胞体量の多い時期に一致してANGの免疫反応性も強かった。このことは、肝細胞の分泌蛋白の合成と分泌がこの時期に高いことを示しており、事実、血中ANG濃度もこの変化に一致している。 2)成熟ラットの腎摘出後、肝細胞におけるANGの免疫反応性を検索したが、無処置のものと同様であった。しかし、コルヒチン投与によりその免疫反応性は上昇し、電顕免疫法で調べてみると、ANGは小型小胞とリソゾームに局在していた。過剰のANGをリソゾームで処理しているものと思われる。 3)胎生期において、ANGの免疫反応性が明瞭に認められるのは、胎生20日目であった。その反応は多くの肝細胞で認められたが、弱いものであった。生後1日目になると、非常に強い免疫反応がほとんど全ての肝細胞に認められた。5日以降、免疫反応性は発達段階で異なっていたが、成熟ラットのものとほぼ同様であった。肝細胞におけるANGは、出生直後から腎のレニンの基質として有用となろう。
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