細胞骨格は形態形成や分泌、食作用を含めた細胞運動に重要な働きをもっている。クララ細胞で発見された多量の線維もこの細胞機能の発現に重要であると考えられた。主として界面活性剤を含む溶液を灌流する方法を用いて線維の分布、線維の性質、線維の発生学的側面についての知見を得た。線維はラット、マウス、モルモット、ハムスターのほか、ヒト、牛、豚においても発見された。ラット等において線維は細胞膜と密接な相関をもっていた。無処理のクララ細胞において細胞膜直下に均一な領域があり、ここには細胞内小器官が存在しないが、この領域の存在が多量の線維によるものであることを明らかにした。ヒト肺には予想以上の多量の線維が存在していた。線維はしばしばBundleを形成しており、一部は接着装置と結合していた。ヒトクララ細胞には滑面小胞体が少なく、線維のこの小器官との関連は少ないことが示唆された。線維の性質についてはHeavy meromyosinと免疫組織化学の手法を用いて調べ、大部分の線維はアクチンであったが核周囲にはサイトチラチンが存在していた。ビメンチン、デスミン、ニューロフィラメント、GFAPの存在は否定された。ラットを用いて胎生後期から出生直後の肺クララ細胞を観察した。胎生期のクララ細胞は大量のグリコーゲンを有しており、線維はほとんど観察されなかった。出生直後よりグリコーゲンは急速に消失し、分泌顆粒が出現するようになり、線維の存在も確認できた。細胞骨格はもとより細胞が形を成した時より存在するものではあるが、出生後特に増加したものであるかを調べるために、In situ hybridization法によりアクチン遺伝子の発現時期を検討している。クララ細胞内の線維は細胞の成熟と共に増加し、主として顆粒分泌等の機能に重要な役割をもつものと結論づけられた。
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