研究概要 |
1.今年度に次の点を明らかにした. (1)モノクローナル抗体T21が認識する抗原物質は, 分子量54,000のシアル酸を含む糖蛋白質である. (2)そのシアル酸は抗原のエピトープを隠蔽しているための通常の抗原抗体反応を直接利用するアフィニティー法では抗原分子を分離し難い. 脱シアル化するかあるいはWGAレクチンを用いてアフィニティー法を組合わせて分離する方が良い. (3)シアリダーゼ処理して抗原隠蔽を除くとエピトープは効率良く暴露され, 抗原分子の動態を詳細に解析できた. (4)その結果, 抗原分子は精巣上体明細胞から分泌され未成熟精子の尾部細胞膜に特異的に結合する分子であり, その結合には安定化因子が深く関係している. (5)その安定化因子のアツセイ法を確立した. (6)予想される抗原安定化因子の分子量は40,000-50,000であるが, 小さい分子量のものも存在する可能性がある. 2.今年度新たに次の知見を得た. (1)精子上体に到達した未成熟精子にT21抗原に対するレセプターが既に存在する. (2)レセプターは, 精子形成過程で合成され, 少くとも精娘細胞以後の細胞膜表面に発現される. (3)T21抗原を持たないラットやハムスター精子にもレセプターが存在するため, このレセプター分子は哺乳動物精子に共通した成熟抗原と結合する分子である可能性がある. (4)従って, 哺乳動物の精子成熟は, 精巣上体明細胞から分泌される分子が抗原安定化因子の存在下に未成熟精子細胞膜に存在するレセプター分子に結合するというふうに考えることができる. これらの一つでも欠けたら精子は受精能を獲得できないかも知れない. 次年度以後は, これらの一つ一つの点を解析し, 精巣上体における哺乳動物の精子成熟過程全体を解析していく予定である.
|