研究概要 |
2年間で次の事柄を明らかにした。1.単クローン抗体T21が認識する抗原分子は分子量約54,000のシアル酸を含む糖蛋白質(sgp54と略)であり、精子成熟抗原である。2.sgp54のエピトープはシアル酸で隠蔽され、通常の抗原抗体反応を利用したアフィニティー法では分離が困難であったが、レクチンを用いたアフィニティー法と組合せると分離が良くなった。3.シアリダーゼ処理して抗原隠蔽を解除するとエピトープは暴露された。この方法をgerm cellーfreeマウスであるWBB6F_1w/w^rに応用し、電顕レベルでsgp54分子の動態を解析した。すなわち、(1)sgp54は精巣上体の明細胞から小顆粒あるいは膜系に伴って分泌され精巣上体管腔内で未成熟精子表面に結合する。(2)その結合には抗原安定化因子と呼ばれるべき物質が密接に関係していた。4.抗原安定化因子の解析用のアッセイ法を検討し改良を重ねた。安定化因子の分子量は50,000〜60,000程度と推測されたが量的には少ない。5.sgp54に対するレセプターが存在することが判明した。(1)レセプターは精子形成過程の精母細胞で合成され精娘細胞以後の細胞膜表面に発現される。(2)このレセプターはsgp54を有しないラットやハムスターにも存在する。従って、成熟抗原に対するレセプターは哺乳動物の精子に共通した分子である可能性が強い。これらの事実を総合すると、哺乳動物の精子成熟過程には精巣上体上皮細胞から分泌される精子成熟抗原分子が安定化因子の存在下に未成熟精子細胞膜に存在するレセプターに結合するという過程であると考えることができる。
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