伝導路の形成過程と稀突起膠細胞の髄鞘を形成する時の反応をmld(my elin deficient mouse)という髄鞘形成不全の常染色体性劣性遺伝マウスの稀突起膠細胞の行動を中心に分析することを試みた。以下の点を明らかにした。1.当教室で維持していたmldの系にC57BL/6Jclの野生型を支配して雑種にして、系統を維持した所、ホモ接合体同志で支配繁殖が可能になり、mldのホモ接合体が全ての発育段階で観察可能になった。 2.ゴルジ鍍銀像によると髄鞘形成直前の伝導路(精髄後索を使用)における幼若稀突起膠細胞は正常・mldを問わず同じような形態で多突起性で、細胞体周囲がベール状を呈する細胞である。従って、髄鞘形成開始時において、稀突起膠細胞の突起の軸索に対する行動は髄鞘の構成要素の有無には関係ない別の因子によることが示唆された。 3.mldの髄鞘は層板中に周期線が形成されず、周期間線を中心とした3層構造が基本となるが、様々な程度に周期線がモザイク状に発現し、個々の稀突起膠細胞の遺伝的性格によって周期線の発現が決定されると考えられた。 4.mldの錐体路は3日令で錐体交叉に達し脊髄に進入するが、これに遅れて5日令から急激な稀突起膠細胞の増殖がはじまり、結果としてグリアのhyperplasiaの状態になる。5日令を越えると細胞質内にゴルジ装置、粗面小胞体の崩壊によると考えられる空胞化が生じ、伝導路形成時にピークをもつ活発な生化学的活動が変化した形で表われていると考えられる。この時期は伝導路が標的神経鎖に到達する時期に一致すると考えられ、軸索の機能発現が稀突起膠細胞の機能分化に深く関与することを示唆する。 5.shivererとmldの初代雑種から両者はallelicであり、雑種の髄鞘はshivererに近い形態をとるものの、mldの性格もかねそなえていた。
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