昨年度の成果をふまえ、本年度は以下の二点で成果をあげた。(1)視覚系:上丘におけるアデノシン、デアミネース(ADA)含有ニューロンが、視床の後外側核に投射することを、免疫組織化学とHRPトレーサー法との併用により証明した。そして、上丘のADA含有細胞に対し網膜からの入力線維が直接その樹状突起にasymmetric synapseを形成することを、変性法と免疫電顕とのコンビネーションにより明らかにした。すなわち、網膜神経節細胞(アデノシン含有)→上丘ADA含有細胞→視床後外側核→大脳皮質視覚領に至る視覚伝達系が存在し、そこにおいてアデノシンが重要な役割を果たしていることを示している。また、視神経切断により、上丘表層のSubstancePやenkephalinを含有するニューロンは著明な変化を示したが、ADA含有細胞は変化を示さなかった。(2)体性感覚系:固定法を工夫することにより(carbodiimide固定)、後根神経節、脊髄後角、後索、後索核におけるアデノシンおよびADAを含有する細胞、終末の分布について検討した。後根神経節では、アデノシン含有細胞は中〜大型で、一部グルタメートを同時に含有する。一方、ADA含有細胞は小型で、その多くはソマトスタチンを同時に含有する。CDI固定は電顕観察に適さないので、免疫電顕のための固定法について現在検討中である。 以上より、ADAはアデノシンによる神経伝達に関与するものと思われるが、アデノシン作動性ニューロンの特異的マーカーとして使えるかどうかについては、更に検討を要するところである。今後は、アデノシンリセプターの精製、アデノシンリセプターをコードする遺伝子のクローニングを行ない、insituハイブリダイゼーション・免疫組織化学により、リセプターの形態学の面からアデノシン作動性システムを検討していきたい。
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